報道のクロスメディア化と誤報からの救済

 先週末,ある放送局が,私のクライアントについて,誤解を招きかねない不適切な放送をしました。調べてみたところ,その番組は,放送局のサイトやオンデマンド放送でも流されていました。そこで,直ちに抗議文を送り,放送局のサイトとオンデマンド番組から削除するよう申し入れたところ,今日,放送局から,当方の申し入れを受け入れるとの連絡がありました。

 かつては,新聞にせよ,テレビ番組にせよ,誤報がなされた場合には,当該メディアに訂正をさせるというのが最初に採るべき救済手段でした。すでになされてしまった報道自体をなかったことにすることはできませんから,速やかに訂正をさせることは,現在もなお重要な意味を持っています。

 ただ,最近の報道は,新聞もテレビも,クロスメディア化(ひとつのコンテンツを,複数の様々なメディアへ出力する手法)が顕著で,元の新聞記事やテレビ番組のデータがインターネットを通じて拡散し,容易に検索可能になるという事態が生じます。このような状況の下では,誤報による権利侵害が発生した場合,まずは,データの拡散をいかにして食い止めるかということが極めて重要になります。しかし,そのための実効性のある法的な救済手段が整っているわけではなく,メディア側が自主的に対応するかどうかに依存せざるを得ない面があります。

 クロスメディア化を推進するのも結構ですが,他方で,生じるかもしれない権利侵害に対し,速やかに対応できる仕組みを整えることも,メディアの社会的責任ではないかと思います。

 (弁護士 嘉多山 宗)

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