希望のメッセージ 10月14日
二十世紀のアジアの最も偉大な作家である中国の魯迅は,核時代に生きる私たちに直接呼びかけている。「希望はもともとあるものともいえない。ないものとも言えない。地上の道のようなものだ。地上にはもともと道はない。歩く人が多くなればそれが(希望という)道になる」。核兵器の廃絶が実現するかどうかに人類の未来がかかっている。それを人類はかつてやったことがない。
現実派の国際政治学者らは,核実験は許せないが核保有は正しいとか,核兵器より強力な武器が見つかるまでは核兵器を持つしかないという。これには想像力が二重に欠如している。一つはこのままの核状況が続けば人類は滅びるしかないということ。二つには希望の想像力だ。道のないところに道を造るという想像力が欠如している。
――大江健三郎 朝日新聞1995年12月6日